PrEPって?
PrEP(曝露前予防内服)とは、性交渉する前からHIVの薬を内服し、HIV感染のリスクを減らすというHIVの予防方法です。英語の頭文字をとって、PrEP(プレップ)と呼んでいます。
混同しやすいPrEPとPEPの違い
PrEPという予防が考えられる前からPEP(ペップ)という予防方法があります。
名前が似ているため混同しやすいので注意が必要です。
PrEPはPEPと異なります。PEPはあくまで緊急的な予防方法で、実際のHIV感染症の治療に準じて複数の薬剤を用いて行います。PEPは、HIVに暴露したと思う人が、性交渉後に28日間服用するものです。PEP( Post–Exposure Prophylaxis「暴露後予防内服」)とPrEP(PreExposure Prophylaxis「暴露前予防内服」)の主な違いは、PEPはHIVに暴露したと考えられる性交渉「後」に服用され、PrEPは性交渉「前」に毎日継続して服用される点です。PEPの詳細を知りたい方は国立国際医療研究センター エイズ治療研究開発センター(ACC)のHPをご参照ください。
https://www.acc.ncgm.go.jp/general/pep_jpn.html
PrEPの効果
決められたスケジュールを守り内服することができれば、性行為によるHIV感染は99%、薬物静注によるHIV感染は74%の予防効果が期待できると考えられています。(参照:https://www.cdc.gov/hiv/basics/prep.html)
どんな人がPrEPをするべき?
PrEPはHIVに感染するリスクが高い方に推奨されます。
適応条件
- HIV非感染者
- HIV感染のリスクがある
- 成人
- 腎臓の機能に異常ががない
推奨される人
- パートナーがHIVに感染しているが適切な治療を受けていない
- 最近に性感染症にかかった
- セックスする相手が多い
- コンドームを使わないことがある
- 風俗で働いている
PrEPで使用するお薬
現在海外でPrEPとして使用を認められている薬はツルバダとデシコビというお薬です。ツルバダのジェネリック薬が一般的ですが、最近はデシコビのジェネリック薬が多く使われるようになってきました。デシコビはツルバダよりも新しい薬で、腎機能の低下や骨密度の低下が起きづらく、より身体の負担が少ない新薬です。 なお、デシコビは「毎日」の服用で99%の効果が期待できます。ツルバダで嘔気の副作用が強く出るため、デシコビに切り替える人もいます。薬と体質の相性もありますので、ご自身が快適に飲み続けられる薬を選びましょう。
ツルバダ (Truvada): Tenofovir/Emtricitabine

ツルバダはHIVの治療薬の一つです。 内服方法 1日1回1錠を毎日内服する(Daily PrEP)またはリスク行為の前後で内服する(On demand PrEP) 副作用 短期:嘔気、腹痛、下痢、頭痛、皮疹 長期:腎障害、骨塩減少など PrEPにツルバダを用いる事は、日本国内で認められた使用法とは異なります。 ツルバダについての詳細は,(PMDA)のHPをご参照ください。 https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250103F1036_2_03/
デシコビ (Descovy): Tenofovir Alafenamide Fumarate/Emtricitabine

デシコビはHIVの治療薬の一つです。
内服方法
1日1回1錠を毎日内服する(Daily PrEP)
副作用
嘔気、下痢
対象者
男性およびトランスジェンダー女性(性行為によるHIV感染を予防)
PrEPにデシコビを用いる事は、日本国内で認められた使用法とは異なります。
デシコビについての詳細は,(PMDA)のHPをご参照ください。
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250111F1022_2_03/
デイリーPrEPでは、「ツルバダ」「デシコビ」どちらのお薬でも有効性が認められておりますが、オンデマンドPrEPは、「ツルバダ」とその後発品でしか有効性が認めらておりません。
https://www.gme.co.jp/column/column61_prep.html
開始前・開始後に医師の診察が必要
PrEP開始にあたっては、HIVの検査、B型肝炎の検査、腎機能の評価などが必要です。
評価する事
- 既にHIVに感染していないか
- HIVに新たに感染していないか
- PrEPを行うにあたり腎臓に異常はないか
- PrEPによる副作用はないか (身体所見、肝・腎機能の検査)
- B型肝炎に感染していないか (血液検査)
- その他の性感染症 (梅毒、淋病、クラミジアetc)に感染していないか etc
Safer Sexついて

PrEPを開始する事で、コンドームの使用率が減少し、他の性感染症が増えたという報告があります。
一方で、定期的に医療機関を受診する事により、性感染症を早期に診断し治療をすることができる可能性もあります。PrEPを使用することをきっかけとして、自分の性の健康を見つめ直すきっかけづくりにできます。開始前や定期的に医療機関を受診することにより、HIV感染、性感染症を早期に診断し治療をすることができる可能性もあります。PrEPを行ってもコンドームを使用する必要があります。
PrEPの利点/欠点のまとめ
海外のデータをまとめると、PrEPの予防効果・安全性は高く、欠点よりも利点が大きいものと考えられます(表1)。
PrEPを行うにあたっては、怠薬なく予防を続けること、PrEP以外の性感染症の予防(Safer Sex)を行うことが重要です。
利点 | 欠点 |
---|---|
HIV感染症を予防できる | コンドーム使用率の減少=性感染症の増加 |
他の性感染症の早期発見 | 薬の副作用 |
HIVの薬剤耐性 |
PrEPの内服方法
PrEPの内服方法は2つあります。どちらの内服方法が適切か医師に相談してみましょう。
1日1回1錠を毎日内服する。(Daily PrEP)
男性同性間の性行為、男女間の性行為、トランスジェンダーの方、薬物静注によるHIV感染リスクのある方、すべての方に有効性が確認されている方法です。1日1回決まった時間にツルバダを1錠、リスク行為のあるなしに関わらず、毎日内服します。
男性およびトランスジェンダー女性の場合には、性行為によるHIV感染を予防する目的でデシコビを使用することができます。リスクのある行為に備え、1日1回決まった時間に1錠内服する.リスクのある行為がなくても、1日1回決まった時間に1錠内服する
リスク行為の前後で内服する。(on demand PrEP)
男性およびホルモン療法を行っていないトランスジェンダー女性のみ内服可能な方法です。性行為の頻度が1週間に1回以下の方は、PrEPのオプションとして考慮されます。慢性B型肝炎の方はオンデマンドでの内服は出来ません。
性行為の2時間~24時間前に2錠、最初の内服から24時間後に1錠、更に最初の内服から48時間後に1錠を内服し(2-1-1)、終了する方法です。on demand PrEPに使用する薬剤はツルバダです。デシコビでの有効性は確認されていません。性行為の2時間~24時間前に2錠、最初の内服から24時間ごとに1錠内服を2回続け終了

PrEP開始前に最低限必要な検査
PrEP開始前に最低限必要な検査はHIV、B型肝炎、腎機能検査の3つです。
HIVの検査
第4世代の抗原・抗体検査を用いて陰性を確認します。
B型肝炎の検査
慢性B型肝炎の場合には、on demand PrEP(リスク行為の前後のみ内服)という方法を選択することはできません。Daily PrEP(毎日内服する)という方法になります。
腎機能の検査
ツルバダを内服する場合には、eGFRが60以上であることが必要です。
デシコビの場合には、クレアチニンクリアランスが30ml/min以上あることが必要です。
PrEPの開始
PrEP開始前の検査結果に問題がなかったら、間をあけずに、直ちに内服を開始します。
検査終了からPrEPを開始するまでの間は、性行為を行わないようにしましょう。
PrEP開始後1か月の時点で必要な検査
PrEP開始後に必要な検査
最低でも3か月に1回、HIVの検査を受けることが必要です。腎機能の検査は6か月に1回~1年に1回受けましょう。(腎機能の程度や年齢により推奨される検査の頻度は異なります。)
その他、梅毒や淋菌、クラミジアなど他の性感染症の検査についても定期的に受けましょう。A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチンの接種も推奨されています。